大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(う)1184号 判決

…前略…各論旨は,MRC(注,株式会社マネージメント・リサーチ・センター)が倒産すると,大光(注,株式会社大光相互銀行)は期限の利益を失い支払承諾先の金融機関に対しMRCに代わつて一括弁済をしなければならず,そうなれば大光も倒産に至るので,被告人らは,大光の倒産を避けるため,MRCに対し必要最小限度のつなぎ融資を行い,MRCを生かしつつ債権の回収を図ろうとしたもので,正に大光の利益を図つたものにほかならず,被告人らには任務違背も図利目的もなかつたというのである。

そこで検討するに,関係証拠によれば,被告人らがMRCの倒産を恐れたことは所論のとおりであると認められるが,その主たる理由は,MRCの倒産に伴う大光の連鎖倒産を恐れたためではなく,大光が,前記のとおり,監督官庁である大蔵省の行政指導にまつこうから違反していたがゆえにひたすら隠して来たことが明るみに出ることを恐れたためであることが明らかである。すなわち,MRCが倒産すれば,大光が,(1)MRCが実質100%子会社で不動産業を営んでいるのに,これを大光の関係不動産会社として大蔵省に報告していなかつたこと,(2)昭和48年以降も大光の職員をMRCに出向させ,一般向け不動産業務を昭和48年から昭和50年にかけて大々的に拡大し,MRCに対する融資を激増させていたこと,(3)昭和46年以降大蔵省に対してMRCの存在や裏保証について隠蔽工作や虚偽の報告を繰り返していたこと,(4)昭和50年8月の大蔵検査で約1億円の裏保証が発覚し,厳重に注意された際,大蔵省に対し,実際は当時裏保証が約210億円に達していたのに,右約1億円のほかには裏保証はなく,今後はかかることのないよう十分留意すると書面で約束し,しかもその直後から裏保証を再開し,MRCやミナミ工業株式会社その他の関係で多額の裏保証をしていたこと,(5)相互銀行法10条の貸付限度額違反を行つていたこと,(6)被告人駒形らにおいて大光内部の正規の決裁手続を無視し,大幅な担保不足を伴う放漫な不良貸付けをしていたことなどの数々の不適正な行為が明るみに出ることとなり,これらが大蔵省の知るところとなれば,被告人駒形は代表取締役社長としての経営責任を追及され,退陣を迫られることは必至であつたし,被告人五十嵐も不良貸付けに関与した常務取締役としてその責任を免れる状況にはなかつたからである。したがつて,中田社長室長がMRCに出向した坂井に対し「MRCは大光の恥部だから,絶対外に出ないようにしてくれ。」と厳重に注意したように,被告人らとしては,自己の地位にとどまつているためには,MRCが表ざたになることを絶対に避けねばならず,そのためにMRCの倒産をどうしても避けねばならず,MRCに対する不良債権をますます大きくするだけであることを十分承知の上で,当座しのぎに本件各融資を順次行い,実際にも回収不能あるいは回収困難な債権を増大させる結果に終わつたもので,被告人両名について,本件各融資(原判示関係分)が自己保身の目的から出たものであり,かつ,銀行経営者としての任務に違背したものであることは明らかである。それは単なる経営判断上の誤りなどといえるものではなく,明らかに違法性を有する行為というべきである。

所論は,MRCに対する融資を打ち切り,同社が倒産すれば大光も連鎖倒産するので,大光の倒産を避けるため,つなぎ融資によつてMRCを生かしつつ債権の回収を図ろうとしたというのであるが,被告人らはMRCを表ざたにしないためには前記のとおり融資続行以外に道がなかつたためにこれを行つたものと認められ,このことはイ号会議(注,大光の役員会議)でもMRCへの融資の打切りの是非,打ち切った場合の波及効果について一度として検討されていないことに照らしても明らかであるが,なお,所論の見地に立つて考察しても,関係証拠によれば,仮にMRCを倒産させたとしても,大光は赤字に転落するとはいえ必ずしも倒産に至つたとは認められないこと,現に本件発覚後の昭和54年には,昭和50年ないし53年当時より更に不良債権及び裏保証が増えていたにもかかわらず,大蔵省の行政指導等によつて他の金融機関からの救済措置が講じられ倒産には至つていないこと,つなぎ融資をすることによつて既存の債権が回収される見込みが相当確実であればともかく,当時の情勢としては貸し増しをすればするほどMRCに対する不良債権がますます大きくなるだけであることが明らかであつたのであるから,言葉はつなぎ融資あるいは生かして取るなどと言つても,実態は不良貸付けや裏保証などを糊塗し,従来の任務違背を隠すためのものであり,単にMRCの倒産の時期を遅らせる効果があつただけであること,実際にも回収不能ないし回収困難な債権を増大させたにすぎなかつたことなどが認められるから,所論は採用できない。

…中略…

被告人駒形の弁護人の論旨は,特別背任罪の図利目的の対象となる利益は客観的に評価が可能な現実的な利益であることが必要であり,大光の代表取締役社長の地位はそのような利益とは認められず,また被告人駒形が,社長の地位に執着し,その地位を保持するために本件融資をしたことはないので,原判決には法令適用の誤り及び事実誤認があるというのである。

しかし,特別背任罪における図利目的の対象となる利益は,財産上のそれに限らず,社会的な地位,信用などをも含むものと解するのが相当であるから,大光の代表取締役社長の地位をこれに当たるとした原判決に法令適用の誤りはない。更に,関係証拠によれば,被告人駒形が自己保身を図るために本件各融資を行つた旨の原判決の説示,認定は是認することができ,また,同被告人は,本件発覚後,他の役職員から強く退陣を迫られたにもかかわらず,代表権のある会長にとどまりたいとか,非常勤の取締役として残りたいと述べるなど,その地位に強く執着した事実が認められるのであつて,このことを併せ考えても,先にも述べたとおり、被告人駒形が本件各融資を行つたことに社長の地位を保持するという目的があつたことは明らかであつて,原判決に事実誤認はなく,論旨は理由がない。

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